年末調整で、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の中の配偶者(妻)の収入見込みを記載する欄がありますが、書き方に困ってはいませんか。
ここは、正確には配偶者(妻)のその年の所得の見積額を書く必要があります。
収入ではなく、所得を書かなければならないことや、まだ確定していない収入を書かなければならないことから、記載が難しい箇所となっています。
この記事では、配偶者(妻)の収入見込み(所得見込み)の書き方や誤って書いた際の影響について詳しく解説します。
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、その年の最初の給与の支払いを受ける時までに提出するものですが、年末調整の時期に再度提出することや訂正することを想定し、解説しています。
(例)令和6年分の給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を令和6年分の年末調整時期(11月~12月)に提出することを想定しています。
年末調整の配偶者(妻)の収入見込みの書き方
ここでは、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の中に「○○年中の所得の見積額」の欄の書き方について解説します。
まずは、この記載欄に記載する上での注意点を挙げます。
・その年に賞与(ボーナス)がある場合はそれも含む
・収入ではなく所得を記載する
その年の収入の見込み
年末調整の書類の提出は、11月や12月の早い時期に提出を求められるのがほとんどだと思います。
配偶者の収入の見込みについては、その年の収入のことを指すため確定していないことがほとんどです。
例えば、令和6年の年末調整であれば、令和6年の1月~12月に得る収入の金額を書く必要があります。
その年に賞与(ボーナス)がある場合はそれも含む
収入の見込みには、給与以外にも賞与(ボーナス)や手当を含むことも忘れないようにしましょう。12月に賞与(ボーナス)が支給される方もいると思いますので、注意しましょう。
なお、通勤手当や児童手当などは非課税の所得であるため収入に含む必要はありません。
収入ではなく所得を記載する
ここは、収入ではなく所得を記載しなければなりません。勘違いしやすく、また、勘違いすると税金の計算が大きく誤ってしまいますので、注意が必要です。
収入と所得の違いを簡単に説明すると、営業の方であれば売り上げが収入でそこから必要経費を引いた金額が所得となります。
給与所得者は、収入の金額を計算式に当てはめて所得を算出します。
〇計算式は以下のとおりです
給与収入額(A) | 給与所得控除後の金額 (所得) |
備考 | ||
1 | ~ | 550,999 | 0 | 左記の数値が所得 |
551,000 | ~ | 1,618,999 | (A)-550,000 | |
1,619,000 | ~ | 1,619,999 | 1,069,000 | 左記の数値が所得 |
1,620,000 | ~ | 1,621,999 | 1,070,000 | 左記の数値が所得 |
1,622,000 | ~ | 1,623,999 | 1,072,000 | 左記の数値が所得 |
1,624,000 | ~ | 1,627,999 | 1,074,000 | 左記の数値が所得 |
1,628,000 | ~ | 1,799,999 | (A’)×0.6+100,000 | (A’)=(A)÷4(千円未満切り捨て)×4 |
1,800,000 | ~ | 3,599,999 | (A’)×0.7-80,000 | (A’)=(A)÷4(千円未満切り捨て)×4 |
3,600,000 | ~ | 6,599,999 | (A’)×0.8-440,000 | (A’)=(A)÷4(千円未満切り捨て)×4 |
6,600,000 | ~ | 8,499,999 | (A)×0.9-1,100,000 | 1円未満の端数は切り捨て |
8,500,000 | ~ | (A)-1,950,000 |
給与収入が5,555,555円の場合
①「収入金額÷4」
→5,555,555円÷4=1,388,888.75円
②「千円未満切り捨て」
→1,388,000円
③「×4」
→1,388,000円×4=5,552,000円
④「③×0.8-440,000円」
→4,001,600円
年末調整の配偶者(妻)の収入見込みを誤った場合の影響
ここでは、配偶者の収入見込みを誤った場合の影響について解説します。
そもそも見込みで出しているので、ズレることは仕方がないことですが、税金を計算する上での控除額などに影響が出ることがあるので注意が必要です。
配偶者控除受けられる範囲内の影響
配偶者の所得が48万円以下であれば、配偶者控除を所得税で38万円、住民税で33万円受けることができます。
この、48万円の範囲内で所得の見込みを誤った場合には、特段影響はありません。
例えば、30万円の見込みで提出していて、実は45万円だとしても控除額は変わらずに配偶者控除を受けられるためです。
配偶者控除から配偶者特別控除になる場合の影響
配偶者特別控除は、所得48万円超~所得133万円まで控除が受けることができますが、所得に応じて控除額が変わるのが特徴です。
しかし、所得が48万円から95万円以下の場合、控除額は所得税で38万円、住民税で33万円で変わりありません。
つまり、所得95万円以下までの変更であれば、控除額に変化はないため影響はありません。
住民税は配偶者と扶養の数によって非課税の判定を行います。配偶者控除を受ける場合は対象になりますが、配偶者特別控除では対象にならないことに注意が必要です。
配偶者特別控除から配偶者特別控除額の範囲内の場合の影響
配偶者特別控除はその所得に応じて控除額が変わりますので、所得を誤って書いた場合は税額に影響が出る可能性が高いです。
具体的な控除額は下表を確認してください(所得税)。
所得税 | 納税義務者の合計所得 | ||
配偶者の合計所得 | 900万円以下 | 900万円超 950万円以下 |
950万円超 1,000万円以下 |
48万円超95万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
95万円超100万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 |
100万円超105万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 |
105万円超110万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 |
110万円超115万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 |
115万円超120万円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 |
120万円超125万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 |
125万円超130万円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 |
130万円超133万円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 |
例えば、95万円超から100万円以下の範囲で所得の変動がある場合には、影響はありません。
上表の「配偶者の合計所得」のそれぞれの範囲を超えた場合に、控除額が変わるので影響が出てくることになります。
もちろん、133万円を超えてしまうと、配偶者特別控除を受けられなくなるため、133万円以下で記載しており、実際は133超であれば影響が出ることになります。
控除額が変わった場合の影響について
所得の見込みが違うことで控除額に差が出た場合、どれだけ税額に影響が出るかを簡単に算出する方法を解説します。
まず、所得に応じて控除額が変わりますので、所得が変わったことによる控除の差を計算します。
例えば、所得が30万円としていたところ105万円だった場合、その控除の差は38万円-31万円=7万円です。
この7万円に対して所得税の税率を乗じることで、税額の影響額が算出できます。税率が5%であれば、7万円×5%=3,500円が影響額です。
ただ、所得税は課税所得金額に応じて税率が違うので、前年の所得税の税率等を参考に計算すると良いでしょう。
【参考】所得税の税率
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 ~ 1,949,000円 | 5% | 0円 |
1,950,000円 ~ 3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 ~ 6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 ~ 8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 ~ 17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 ~ 39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 ~ | 45% | 4,796,000円 |
※課税所得金額に応じて税率が決まります。
「課税所得金額はどこを見ればわかる?各帳票の記載箇所を解説!」
さらに、住民税の影響額も考えなくてはなりません。
住民税は税率10%と決まっていますので、控除額の差に10%を乗じることで算出可能です。
気を付けなくてはいけないのは、所得税と控除額が違う点です。住民税の所得控除については、下表でご確認ください。
住民税 | 納税義務者の合計所得 | ||
配偶者の合計所得 | 900万円以下 | 900万円超 950万円以下 |
950万円超 1,000万円以下 |
48万円超100万円以下 | 33万円 | 22万円 | 11万円 |
100万円超105万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 |
105万円超110万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 |
110万円超115万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 |
115万円超120万円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 |
120万円超125万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 |
125万円超130万円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 |
130万円超133万円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 |
年末調整の配偶者(妻)の収入見込みの訂正方法
書類を提出した後に、配偶者の収入(所得)に変動があったことがわかったら訂正する必要があります。
なお、控除額に影響がないような場合は訂正不要です。
訂正の方法としては以下のとおりとなります。
・確定申告
再年末調整
翌年の1月31日、または、源泉徴収票の発行までであれば、年末調整をやり直してもらうことができます。
この期間までに、誤りがわかったときはお勤め先にその内容を伝えましょう。できれば、正確な内容のわかる書類などがあればベストです。
しかし、ルール的には可能ですが、お勤め先によってはこの期間中でも、できない場合があります。
再年末調整は、その方の税金の再計算をするだけではなく、社員全体の集計表(合計表)を修正するなど手間がかかってしまうので、再年末調整自体を行っていない場合もありますので、しっかり確認しましょう。
確定申告
再年末調整ができない場合は、ご自身で確定申告により訂正することになります。
年末調整が終わっているので、ご自身の源泉徴収票と配偶者の源泉徴収票があれば、配偶者の控除金額がわかるため確定申告書を作成することができます。
控除額が上がるような訂正であれば、確定申告はしなくても問題ありません。控除額が上がるということは訂正しないと自分が損をするだけで税金を納めすぎている状況なので、申告をしなくても問題がない状況となります。
一方、控除額が下がるような訂正であれば、確定申告は必ずする必要があります。控除額が下がるということは税金を納め足りていない状況なので、確定申告をしなければ脱税状態となり、申告が遅くなれば延滞税などを支払わなければなりません。
いずれにしても、訂正が必要な場合は確定申告をした方が良いでしょう。
まとめ:年末調整の配偶者の収入見込みについて
年末調整の配偶者収入見込み欄の記入は、正確な見込みをした方が後々の面倒がなくなります。
賞与を含めた見込み収入を「所得」として記入し、控除額が所得により異なる配偶者特別控除の適用範囲を理解することが重要です。
記入ミスを防ぐために、収入の見積もりと所得の計算方法をよく確認しましょう。
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